トランペットのアンブシュアを変えるべき?矯正する前に確認したい5つのこと
更新日:9月8日
「アンブシュアが悪いと言われた」「高音が出ないのは口の形のせい?」「今のアンブシュアを一度全部作り直した方がいいのでは?」——トランペットを続けていると、一度はアンブシュアについて悩むことがあると思います。
実際、アンブシュアを変えることで演奏上の問題が改善するケースはあります。しかし私は、アンブシュアの変更は最初に試すものではないと考えています。
なぜなら、「アンブシュアの問題」に見えているものが、実際には息、舌、顎、マウスピースの圧力、練習方法、疲労など、別の要素とのバランスによって起きていることもあるからです。必要な人には変更を提案する。必要がなければ変えない。この記事では、アンブシュアを矯正する前に確認してほしいポイントを整理します。
1. そもそも「正しいアンブシュア」は一つではない

アンブシュアというと、「口角をこうする」「マウスピースはこの位置に置く」「上下の唇の割合はこう」といった“正しい形”を想像しがちです。
しかし実際の演奏では、唇だけが働いているわけではありません。舌、歯、顎、頬、口腔内の形、息の量や圧力などが組み合わさって音が作られています。研究でも、アンブシュアは唇の形だけではなく、空気の量・圧力・方向を、舌・歯・顎・頬・唇などの働きによって調整する過程として捉えられています[1]。
つまり、見た目が教科書と違う=間違ったアンブシュアとは限りません。現在のアンブシュアで、必要な音域を演奏でき、過度な痛みや負担がなく、演奏上の要求を満たせているのであれば、見た目だけを理由に大きく変更する必要はないと私は考えています。
2. 「アンブシュアが悪い」のではなく、別の問題かもしれない

たとえば、高音になると唇が潰れる、すぐにバテる、音がかすれる、音域によって口の形が大きく変わる、マウスピースを強く押しつけてしまう——こうした状態を見ると「アンブシュアを直そう」と考えたくなります。
しかし、口元に現れている変化が原因ではなく結果ということがあります。
息の流れを作れず、唇で補っている
舌の動きとのバランスが取れず、口元を固めている
必要以上に大きな音を出そうとして負担が増えている
疲労した状態で吹き続け、いつもの状態を維持できなくなっている
米空軍の金管奏者を対象とした調査では、アンブシュアの問題を経験した奏者のうち、問題が始まった時期にリハーサルで過度に吹き込む必要があったと答えた人が48%いました[3]。アンブシュアだけでなく、演奏環境や練習の負荷も一緒に見る必要があります。
3. アンブシュアの変更を検討してもよいケース

一つの目安は、息・舌・顎・練習負荷など他の要素を整理しても、現在のアンブシュアそのものが明確な制限になっている場合です。特定の吹き方を維持するために極端なマウスピース圧が必要になるなど、無理な補償動作が続いている場合にも検討することがあります。
ただし、痛み、しびれ、腫れ、出血などがある場合は、「アンブシュアを変えれば治る」と自己判断しないでください。
唇の赤み・腫れ・かゆみなどは、奏法だけでなく摩擦・刺激・マウスピースとの接触によって起きている可能性もあります。金属との接触が気になる方は、管楽器奏者の金属アレルギー完全ガイドもあわせてご覧ください。症状が強い、長く続く、悪化する場合は、奏法だけで解決しようとせず医療機関への相談も検討してください。
4. こんな理由だけでアンブシュアを変えるのはおすすめしません

先生や先輩と形が違うから
マウスピースが真ん中に当たっていないから
今日は高音が出なかったから
最近なんとなく調子が悪いから
上手な人のアンブシュアをそのまま真似したいから
歯並び、顎、唇の厚さ、骨格は一人ひとり違います。同じトランペットを演奏していても、全員がまったく同じ形になるとは限りません。
特に注意したいのが、調子が悪い → アンブシュアを変える → さらに吹けなくなる → また別の形を探すというループです。
585人のプロのオーケストラ金管奏者を対象とした調査では、過去にアンブシュアを変更した奏者は、cramping(けいれん・こわばり)を報告する割合が高いという関連が示されました[2]。これは「アンブシュアを変えると障害が起きる」という因果関係を示すものではありませんが、大きな変更を気軽な調整として扱わない方がよい理由の一つです。
5. 変えるなら「何を改善したいのか」を明確にする

アンブシュア変更を始める前に最も大切なのは、何のために変えるのかを具体的にすることです。
「正しい形にしたい」だけではゴールがありません。たとえば「五線上のG付近から極端にマウスピース圧が増える」「30分程度演奏すると急激に音が出なくなる」「低音から高音へ移るたびにセットを大きく作り直す必要がある」など、まず現在起きている問題を具体化します。
そのうえで、息なのか、舌なのか、顎なのか、マウスピースとの関係なのか、練習方法なのか、アンブシュアそのものなのかを一つずつ整理します。アンブシュアを変えるという結論は、その後でも遅くありません。
6. 私自身もアンブシュアを大きく変更した経験があります

私自身、トランペットを演奏する中でアンブシュアを大きく変更した経験があります。変更後の「今まで普通にできていたことが突然できなくなる感覚」や、何が正しいのか分からなくなる不安も経験してきました。
だからこそ、UPMAKEのレッスンではアンブシュアを変えること自体を目的にはしません。必要であれば変更を一緒に進めます。必要がないと思えば「今はアンブシュアを変えない方がいいと思います」とはっきりお伝えします。
自分では原因が分からなくなってしまった方へ
トランペットは、自分の身体そのものが音を作る楽器です。そのため、問題が起きたときに「どこが原因なのか」を自分一人で判断するのが難しいことがあります。
UPMAKEでは、実際の演奏を確認しながら一緒に原因を整理する個人レッスンを行っています。必要なら変える。必要がなければ変えない。現在の演奏をできるだけ活かしながら、より楽に、より自由に演奏できる方法を一緒に探します。
参考文献
[1]Woldendorp KH, et al. Fundamentals of Embouchure in Brass Players: Towards a Definition and Clinical Assessment. Medical Problems of Performing Artists. 2016.
[2]Steinmetz A, et al. From embouchure problems to embouchure dystonia? A survey of self-reported embouchure disorders in 585 professional orchestra brass players. International Archives of Occupational and Environmental Health. 2014.
[3]Storms PR, Elkins CP, Strohecker EM. Embouchure Dysfunction in Air Force Band Brass Musicians. Medical Problems of Performing Artists. 2016.
※本記事は演奏上の考え方を整理するためのもので、医療上の診断や治療を目的としたものではありません。



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